2022-02-22

ブックセラーの歴史:知識と発見を伝える出版・書店・流通の2000年

本の歴史、ではなく、本屋さんの歴史についての本です。おもにフランスやヨーロッパ諸国の事例になりますが、時代によって「本を読む」ことの意味とか社会的な位置づけが変わってくるあたりが面白いです。あと、やっぱりね、いつの時代もセックスに対する欲望が本(メディア)の普及に対する原動力になるんだなと思ってちょっと笑っちゃったりもしました。たとえばフランス革命前夜のフランスですけど、今で言うところのアダルト小説はとても売れたそうなんです。需要が高い。でもおおっぴらに売っちゃいけないわけで、どうやって売るのか書籍行商人が知恵をしぼったりするあたりも面白かったですね。 

フランスは他国と比べると「本は地元の本屋さんで買わないと」という意識が強い国だという印象を私は持っていたのですが、苦戦しているようです。それでも20世紀後半に登場した本の量販チェーン店や今世紀のネット販売の攻勢に対して地元の本屋さん(独立系書店)がどのように努力し、顧客をつなぎ止めようとしているか、色々な試みが紹介されているのでそういう方面に関心がある人にとってはこれまた興味深い内容になっていると思います。

などといってAmazonのアフィリエイトリンクを貼ってしまう私も私なのですが…(でもまあ、大多数の書籍翻訳者と同様、私も採算度外視で仕事やっているような状態ですのでどうかお許しください)

 

この本の翻訳のご依頼を受けたのはちょうど東京五輪が始まった頃でした。すでにご依頼を受けた時点で刊行時期は動かせないことが条件に入っていました。ですので、この内容にしてみたら時間がタイトで、校了したときには心身ともにボロボロになり、正直言えば今でもまだまったく立ち直れていません。こうできればよかったのになあと思うところもあるにはあります(たとえば人名と書店名の原語、あるいは対応表のようなものをページ数やとくに編集時間の関係で載せることができなかったのは個人的には少々残念に思っています。カタカナで書いていてもわかりにくいですよね。ですので、どうしても原語を知りたい方は、何らかの形で私にご連絡ください)。

そもそも公共図書館にこの本を入れていただければ嬉しいなという理由から、予算年度に合わせて版元さんが刊行日も最初から指定していました。とはいえ印税契約している以上、私としてはご購入してくださるほうがうれしいことにはかわりません。それに購入していただかないかぎり、本書のテーマになっている本屋さんはまったく利益が得られないのです。

その一方でこの本は決して簡単に買えるような価格設定でもありません。ですので、こうしたテーマにご興味がある方ならば、どのような形であれ、読んでいただければ、私は翻訳を引き受けた甲斐があったのだろうと思います。そして、読んでいただいたあとには、もっと本屋さんを大事にすること、本屋さんで本を買って読むことについても考えてみてください。ときにはたとえばご家族でいっしょに本屋さんに行って、各々が並んでいる本を眺め、読んでみたいなと思う本を実際に手に取り、自分で選んで買ってみるという経験もよいのではないでしょうか。そうした考え方の変化の一助になれば私としてもうれしいです。

ところで、帯に鹿島茂先生のコメントがあって、腰を抜かすほどびっくりしました。20年以上前に、横浜のカルチャーセンターで鹿島茂先生のバルザックの時代のフランスについての講座を受けたことがあります。当時、私も読んでいた『子どもより古書が大事と思いたい』というエッセイが刊行された少し後で、カルチャーセンターの担当者の方がそのことについても触れていらしたことを思い出しました。

その時は、まさか自分が将来書籍翻訳に携わることになり、ましてやフランスの本屋に関する本について翻訳することになるなど夢にも思っていませんでした。本当に感激しております。誠にありがとうございます。