2018-04-17

TeXって何と読むか知ってる人のために

以前出版されたこの本『定理が生まれる』 の著者で数学者のセドリック・ヴィラーニさんは現在、研究をストップして、現在下院(国民議会)の議員を務めています。

ちなみにセドリック・ヴィラーニさんについては以前書きましたのは次の通りです:
サインをいただいたあのときにセドリック先生にお目にかかったのは、フランス大使館でのレセプションでした。

なのに、この本の正当な翻訳者である池田思朗先生がなんとご欠席されてしまい、私以外の日本人で招待されていた方々のほとんどがみな数学・物理関係者というとんでもないアウェイ状態だったことを今思い出し、汗をかいております。

もう話せることなんぞないから「池田先生は素晴らしい先生です! 私のフランス語の誤訳も辛抱強くたくさん指摘してくださいましたし、とにかくいいものを作ろうというその強い意志が実ってよかったと思います」とかなんとか、自分の頭に浮かぶポジティブなことをすべて言いまくってました。数学・物理関係者のみなさん「池田さんすごいね」ととても感心されていた記憶があります。

ともかく、その後に版元さんの早川書房の方々、本部長さんや編集者さんたちがいらっしゃらなかったら私、緊張のあまり死んでましたね。ただでさえ、普段自宅警備員なのに。

もう覚えていらっしゃらないかもしれませんが、早川書房の副社長さんにお会いしたのもそのときが最初で最後です。列席者の中で一番頭悪そうな私のような自宅警備員がいても、とても親切で、気取ったところもなければ、気さくな方でフットワークも軽く、もちろん今でもいただいた名刺は大事にしまってあります。

あのレセプションでは、早川書房の社長さん(「社長さん」なんていい方していいのでしょうか?)もいらっしゃいましてスピーチされました。翻訳書に対する愛情あふれるスピーチだったと記憶しています。社長さんがお帰りになるときは、副社長さんが社長さんに私のことも紹介してくださってご挨拶いたしました。もちろん名刺も大事にしまってあります。

そのときのことなんてきっと早川書房の方々は忘れていると思います。ですが私は、カズオ・イシグロがノーベル文学賞をとったとき、本部長さん(今の肩書きわからないですけど)がテレビに映っていたり、テレビでカズオ・イシグロが社長さんの息子さん(副社長さんのこと?)の仲人を務めたとかいう話を聞いたりしたとき、掛け値なしにものすごくうれしかったのを覚えています。出版業界の方々が半分茶化し気味でもそろって喜んだのは、そうした早川書房の方々のお人柄もかなり大きかったんじゃないのかなと思いました。

さて、セドリック・ヴィラーニさんに話を戻します。

セドリック先生は、9月にフランスにおけるAIの現状・今後のあり方についてレポートをまとめるようフィリップ内閣から求められ、3月末にそのレポートが発表されました。

http://www.enseignementsup-recherche.gouv.fr/…/rapport-de-c…


それを受けてマクロン大統領がフランスはAI国家をリードしなければならないと演説したわけですが、

https://roboteer-tokyo.com/archives/12179





この件については、AI問題の最大の懸念と言われている「倫理的な側面」という観点でのオチがついていないというのがヴィラーニ・レポート発表後、問題になっているようです。

これはちょっと数か月で結論が出るような問題でもないですしね。どうなんでしょう? オランド政権時にAIの倫理に関する諮問委員会とかいうようなものがあったらしいんですけど。それが引き継がれたかどうかも不明ですし(フランスの常識で考えれば引き継がれてないと思います)。

ところで、AIといえばロボット。Pepperってソフトバンク……つまり日本人が開発したと思ってる人は手を挙げて!

先般、「Pepperの産みの親は誰か」問題で話題になりましたが。

わかりやすい答えはこちら↓

https://toyokeizai.net/articles/-/66761





あれからメゾニエ氏はソフトバンク陣営と実質決裂し、アルデバランの株を全部譲って出て行きました。そしていま、もうアルデバランという社名は残っておらず、現在ソフトバンクロボティクスヨーロッパという会社になっています。

なお『定理が生まれる』は早川書房でも唯一、電子書籍化の見込みは無さそうな本だと思ってたんです。

というのも、この本の中の説明にもあるように、TeX(日本語ではテフというらしいですが、どうもフランス語(英語も?)テックというそうです)という数式がもっとも美しく表せる組版システムを使って刷られている本であること……

そう、この「テック」という言葉、大使館で同時通訳をされるような超優秀なプロの方もとまどったほどその業界に特化した言葉ですね。

はい、日本語版発売にはTeX(LaTex?)を使うこと、しかもそれを(日本でよく使われるような)Adobeのソフトウェアなどの組版に変換するなというのが著者の強いご希望でした。

この本の第8章に、そのTeXの素晴らしい理由が書いてございまして、つまるところTeXで組版をしないとつじつまが合わないからです。

たしか「翻訳者に対する注意事項」大文字・ボールド書きされてたかなあ、とにかくプライオリティが高いご希望でして、版元さんにはとてつもないご苦労があったと思います。

そして、セドリック先生も日本語版の美しさには来日されたとき感嘆されてはいたんですけど……

私、当時原書をもらわずPDF化したプリントアウト版を元に翻訳していたんです。そっちのほうが書き込みやすいからという理由もあって、あまり原書に固執していなかった。

でも、来日されたときに「サインもらいたいなあ、それならフランス語の原書のほうに」と思ったら日本ですぐに手に入れられるのがPoche版(日本で言えば文庫本みたいなもん?)しかなく、それにサインをいただいたんですよ。

でもね、そのときはもう「ワオ、セドリック・ヴィラーニについに会えた!」と舞い上がってて気づかなかったのに、今冷静に考えてみたら、それこそフランスのPoche版だってきっとTeXで組版しているわけじゃないですよね……まさかそうなの?

そして、フランスではいま、原書はKindleでも出ています




2018-04-16

古い夢は置いていくがいい

教養のあるなし、について最近考えさせられることがありました。

私に教養がある?って聞かれれば、ないほうだと思います。仕事を受けてはじめてその分野を猛勉強するようなタイプで、こういってはなんですが教養の蓄積などなく、副業であれ職業だから勉強するんです。インターネット世界のおかげでずいぶんそうしたやっつけ的な勉強もしやすい世の中になりましたし、ともかく関連本を借りてきたりしてね。

ワインのアロマについての本も訳したことがありましたが、私自身はワインはあまり好きではなく、好んで飲みません。フランス語を生業としているのにひどい話ですよね。

数年前までは色々と本を買っていましたが、もう自分の仕事に関係するような関連本すらろくに買えない。周りには私の本を買って下さい、買って下さいと強烈にプッシュしているのに矛盾も甚だしいです。


2018-04-13

他人事ではないマクロンの「革命」


誤解されているようですが難しく書いてある本ではございません。
確かに原書を読んだときは、この人1977年生まれなの? 1877年じゃなくて?とずっこけそうになりましたが。

難しい言い回しをしないでほしいという版元さんのご要望のもと、共訳者の山本知子さんが正確に意味を汲み取って読みやすくしています。
初稿直しの時、その過程で、意味が誤解されるかも、本意から離れたかもという箇所、あるいは編集部によるものも含めてその過程での事実誤認で赤入れされたところが間違っていると確認したものは、意味が原書に近くなるよう、私自身もこういう意味であのことを指しているのではないかと随分訂正入れさせていただきました。


エマニュエル・マクロンの自著

本日4月6日、ポプラ社より発売になります。
エマニュエル・マクロン現フランス大統領が、いまから2年ほど前に大統領選出馬を決めたときに執筆し、本国では1年半ほど前に出版された彼の自著の日本語版です。

エマニュエル・マクロン (著), 山本 知子 (翻訳), 松永 りえ (翻訳)『革命 仏大統領マクロンの思想と政策』


ここのところこのブログの次のエントリーで少しマクロンにからめていたのはこの本が理由でした。


実際に日本人の読者にとって、マクロンによるフランスでの政策に興味があるかないかといえばないと思います。ですが、この本を読めばきっとフランスの抱えてきた根深い、根深い社会問題がよくわかると思います。それは意外と日本では知られていないことであり、また一方で、日本にも非常に当てはまる、身につまされる部分もあります。


楽しかった小学校

ふとしたきっかけで山田先生の「歯を食いしばれ!」という怒鳴り声が頭のなかで再生されてしまうことがあります。

山田先生は私が小学校3年生のときの担任で、年はおそらく今の私よりは若い30代後半ぐらいの女性教師でした。
「歯を食いしばれ!」というのは、しくじったりやっちゃいけないことをやってしまったりしたクラスの子にお仕置きのビンタをする前の山田先生の掛け声。
私は山田先生にビンタまではされたことはなかったけれど、誰かがビンタされるのを見なきゃいけないのがつらくて。
とにかく失敗することへの恐怖、目をつけられるようなことはしちゃいけない…けれども子どもってなんだかんだいっても順応力があるから、そんな毎日でもなんとかやり過ごしていくことができてしまうんです。